★藤原低下短歌集

● メール打つ 麦藁帽子の少女 ハンバーガーは 

                八月のマック 
        
                選評   いかすみごたく8月10日

 (選者評 いかすみ作者)
  季節に相応しい歌である。ハンバーガーを食べながら、メールを
  打つ少女の姿が麦藁帽子の涼やかさとが眼に映るようです。
  少女の持っているパソコンはMACなのでしょう。
  マクドナル店とMACをだぶらせる表現力は作者藤原低下氏の力量
  が存分に現われている。
 平安朝時代に歌うことの出来なかったインターネットの世界は、  歌といえど、時代を離れて存在しないといえよう。  ただ、言葉の濃密さには問題がある。言葉を圧縮して、簡潔さを  もっと求めなければ、歴史の荒波に耐えた作品となり得ないように  思われる。
 言葉の圧縮が乏しいのは、現代の若者たちはメールで  添付ファイルをZIPで圧縮する手軽さに慣れ親しんだ結果だろう。  そういう意味では藤原定家の足元にも及ばない。  作者はそのことを十二分に悟っているものと思われる。  名前の藤原低下の”低下”の由縁は、質の低下を自覚していて、  そこから名付けられたものと思われる。  作者はまだ若いし将来性のある才能を秘めている。  次回作を期待したい。

 

●  ”このかまりがいいなす”と うががへったから 

           八月十五日は 南部煎餅記念日

                    選評   いかすみごたく9月30日

 (選者評 いかすみ作者)

  久々に藤原低下氏の短歌が寄せられた。
  はっきり言って、この歌は駄作以外のなにものでもない。
  プロの歌人をめざすなら、もっと言葉の使い方に繊細な神経を
  働かせて欲しい。

  これは、あまりにも有名な俵万智氏のサラダ記念日からの露骨な
  盗作に近い。
  都会の読者の為に一応注釈をしるしておこう。
  ・かまり・・・匂い、 ・いいなす・・・いいね
  ・うが・・・あなた、 ・へった・・・言う 
  ・南部煎餅・・・小麦粉に胡麻を 振り掛けて焼いたもの。

  ”この味がいいねえ”と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日
                               作者  俵万智

  藤原低下氏の歌は俵万智氏のイメージを南部方言に置き換えた
  だけである。方言による新しい短歌を試みているらしいが、イメージ
  は独自のものでなければならない。
  ましてや、八月十五日は、日本国民にとっては、特別神聖な日で
  ある。そのことを忘れてはいけない。
  終戦記念日を、南部煎餅記念日とする藤原低下氏の感性が
  問われかねない。
  むしろ前回八月十日の”八月のマック”は、圧縮力に欠けているが、
  優れた出来映えであった。
  次回作を期待する。

 

 ● しこしこと しごけどもなお我が青春の 熱き日にならざり 

  じっとチンを見る                  
                       選評   いかすみごたく1月12日

  (選者評 いかすみ作者)
  また久々に藤原低下氏の短歌が寄せられた。

  正直言ってこの歌を読んだ時に、私はおもわず周囲を
  見まわした。第一に恥ずかしかったのである。
  これほどに、自慰がストレートに歌われた短歌を私はほかに
  知らない。
  藤原低下氏は歌の技量表現の低下のみあらず、人格的にも低下して
  いるのかなと思った。
  でもよく読んでみると、中年のおじさん方の心象を如実に歌った
  ものかも知れないと思うようになったのです。
  会社ではリストラされ、賃下げも横行し、家庭でも妻や子供たち
  に邪魔にされ、居場所も無くなった男の空しさみたいなものが
  歌の底流に流れているようにも思われる。賃下げとチン下がり状態を
  ダブらせる手法は藤原低下氏の優れ
  た技法である。
  そういう視点で見たときに、若き日の心や肉体の奔放な野望が
  ダイレクトに歌われているように思われるのです。
  そして、失われた若さや肉体の奔放さが今は宝石のような大切
  なモノに見えてくるのであろう。
  またこの歌を読んで社会背景がしのばれるのは次の短歌が
  日本人の心に宿っているからである。

    ”はたらけど働けどなお我が生活 楽にならざり 

     ぢっと手を見る”

  そうなんです。石川啄木のこの歌に藤原低下氏は大きく影響を
  受けているように思われる。だからこそ、今の時代が映し出されて、
  我々が深読みできるのである。
  藤原低下氏はまだ若い。まだ習作の過程であろう。
  スキーとかなんとかにうつつを抜かしていないで、短歌の世界で
  現代社会の事象を歌って欲しい。
  次回作を期待する。